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知性がない

なけなしの知性で生き延びていこうな

空っぽの男が虚無のまま死ぬ!--ウェルベック『プラットフォーム』

読書

この『プラットフォーム』の主人公は、虚無な男だ。

この主人公には本当にうんざりで、人生は空っぽだし、女と見るやセックスのことしか考えない。買春に生きがいを見つけているがそれも虚無だ。

小説は長く、半分ぐらいは退屈で、激しくて露骨でやたら長いセックスの描写ですら息抜きになる。

まあその退屈と虚無と自分の人生がどれぐらい違うかと聞かれると、わからなくなってくるし、だからこそ、虚無だとわかっていてもこの小説を最後まで読んだのかもしれない。

装丁はやたらかっこいい。さすが河出文庫だ。

虚無人間を表現するという芸術

虚無虚無言って、面白くないとか、好きな場所が少しもなかったかというとそんなことはない。

冒頭近く(ここからすでにうんざりで、女が出てくるまで話はものすごく退屈だ!)、この主人公が虚無だとはっきりわかる瞬間だ。主人公が、窓口で出会っただけの女に、クイズショーの話をしようとするのだ。

このワンシーンだけで、この男が、普段話す相手もほとんど居らず、仕事から帰ってきたらクイズショーを見るしかすることがなく、そして相手の反応も考えずその話しかできない虚無な奴だ!とわかる。

ウェルベックは本当にこういう虚無な人間を描くのが上手い。

そのほかにも、大学を卒業してキャリアウーマンとなった女が、もう学生の身分には戻れず延々と働き続けることになると気づいて「絡め取られた」と回想するシーンなどは後悔とも言えぬ寂しい感情があふれていてよかった。

ウェルベック、わりと女を片付ける。

ストーリーとしては、ざっくり言って以下のような感じだ。*1

男は父の遺産でタイへツアーに行き、そこで出会ったプライベートで来ている女と意気投合し、彼女の旅行代理店の仕事を手伝うことになる。いろいろあって女と企画した買春ツアーが大成功し、幸せの絶頂でイスラム過激派のテロで女は殺される。

ここがまさに片付けられたなあという印象。

私はこんなふうに、ストーリーを進めるために現れ、じゃまになったから片付けられる登場人物がものすごくダメなのだ。特にこの女は、主人公の男に惹かれる説得力のある理由が全然描写されないのに、勝手に惚れて片付けられてしまう。男が虚無である描写はものすごくちゃんとしていて、こいつ性欲でしか人を見ていない!虚無だ!というのは本当に本当に上手く描けていて、そこが面白いぐらいだったのに、男が虚無であることがはっきりすればはっきりするほど、なぜそんな奴にこんなに知性のある女が惚れるのかわからなくなる。

結局女が死んでしまったあと、虚無男(こうとしかもう呼べない)は全ての気力を失い、何もできないまま死んでしまう。 あれだけ女と乱痴気さわぎを楽しんだ末に、女がいなくなった瞬間虚無のまま死んでしまうのだ。

虚無を描く作家としてのウェルベック

ただ、本当に虚無な人間を描く作家としてウェルベックは上手くて、そんなに簡単に虚無な人間が虚無じゃなくなることはできないし、そう簡単に人は救われないよなというのは異常にリアリティがある。虚無の描き方こそが、ウェルベックの面白さなのかもしれない。あまり好きにはなれない話だが。女が片付けられてしまうし。

ウェルベックはもっと歳をとったあとの作品、『ある島の可能性』を先に読んでいたが、この『ある島の可能性』のように、歳をとったあとの作品のほうが虚無にも凄みがあり、むしろエモさに転化していた。なにせこっちでは、虚無な男が書いた手記をその男のクローンが読み継ぎ、注釈をつけているのだ!ここまでくればかっこよさでしかない。

私は虚無を楽しむことしかできなかったが、読み込もうと思えば人間の肉体性についてなにか言えそうにも見えた。イスラームに関してもこの作品ではストーリ上無理やり現れたみたいな風に見えたので、そろそろ『服従』とか読みたいところ。

服従

服従

*1:ネタバレが有害な作品でもない。