5000兆円もらってもまだつらい
これは「虚無とたたかう」アドベントカレンダー3日目の記事です。
今日は「人生のつらさを生み出すもの」という虚無の側面について考える。もし5000兆円もらったら、虚無に構う気なんてなくなるだろうか?
5000兆円さえあれば
うつ状態の人にお金を渡すと、うつが軽減するという研究がある。
この研究は実感に近い。金がないとつらい。お金はサービスやものと交換できる。お金があれば大抵の夢が叶えられる。院にも行けるし海外にも行ける。
虚無とたたかう最も手早い方法は、安定した収入を得ることだ。5000兆円あれば大抵の虚無は追い払える。
あくせく働かなくてよくなれば好きな映画を観に行くのにためらうこともなく、絵の勉強だってできるし、家族も養える。夢を叶える手段としてそうできる。
満たされない欲望に苦しめられることなんてほとんどなくなるだろう。あとは好きなだけ人間関係をやる、もしくはやらないでいればよい。
5000兆円もらうと良くなる虚無は、意欲はあれどそれを果たす手段が欠如しているタイプの虚無だといえる。満たされない欲望が、諦めが、反転して虚無を生んでいるわけだ。
5000兆円もらっても
けれどそういう虚無だけではない。5000兆円もらってもつらい虚無もある。
精神に損傷を負うと人の意欲は減退してしまう。
手段としての金を与えられても目的を発生させられなければ無力である。
うつ状態になると大体全てがつらいわけで、そこで人はある問いを立てることになる。
深すぎる苦しみの中で、「この世界は、自己は、生きるに値するのか?」と。
この疑いは人に虚無の深淵を覗かせる。逆向きにトゲのついた針のようなもので、一度飲み込むとなかなか抜けだせない。どんな答えも根拠に欠ける。なぜならこの疑いのループを止めるにはそれ自体を根拠とする答えが必要であるから(人はそれを信仰と呼ぶ)。
前の記事でも軽く触れたが、この虚無は言語によって生まれたものだ。なので、言語による思考能力を落とせばつらさは軽減する。だから人は精神薬を服むし、労働が推奨される。
これがより本質的な虚無だから残るというわけではない。ただ別の虚無として、5000兆円もらっても消えない虚無として存在する。
まとめ
ここでは5000兆円を使って虚無を二つに分けることができた。果たされない意欲が反転して生まれる虚無と、意欲自体が損傷して向き合う深淵としての虚無と。
もちろんこの二つははっきり分けられるものではなく、うつ状態になると両方の虚無に苦しめられることになるだろう。意欲が減退しているのだからやらなければならないことをすることもできず、そのために自分の価値を疑い始める。そうすればまた意欲も減退する、と。虚無ループだ。抜けるには長い時間がかかる。
次回の「虚無とたたかう」アドベントカレンダーは、「人生のレールに乗ることを選んだ人々ーー異性愛者を誰が笑えるか?」です。虚無とのたたかいが実際に行われている様子を検討します。
2017/12/07
書きました