知性がない

なけなしの知性で生き延びていこうな

最近読んでる短歌本

最近はこの記事を参考に短歌本をちまちま読んでいる。

ashnoa.hatenablog.com

3年近くも短歌をやっているというのに、短歌本はそんなにたくさん読んでいなくて、 はじめるときは『短歌という爆弾』と『かんたん短歌の作り方』、あと『短歌の友人』を読んで、始めるか悩んでてもしょうがないし31文字作ったら感性だしえいやっとつくっちゃうかー大学に短歌会あるしそこに友達もいるし突撃だイエーイみたいなノリで始めたのだ。

かんたん短歌の作り方 (ちくま文庫)

かんたん短歌の作り方 (ちくま文庫)

ノリで来てしまっていたために、基本図書というものにあまりふれないで3年もやってきてしまった。

もちろんある時点で、こりゃ短歌の勉強したいなと思って『現代短歌の鑑賞辞典』と『現代短歌の鑑賞101』を読みはした。*1

現代短歌の鑑賞101 (ハンドブック・シリーズ)

現代短歌の鑑賞101 (ハンドブック・シリーズ)

しかしそこでも困ってしまったのだ。

私は大抵のことはわからないのだけど、良さがわかる短歌がほとんどなかったのだ。もっと具体的に言うと。前衛短歌以前の短歌の良さが全然わからない。斎藤茂吉レベルになるとエモを感じ取れはするし、さすがに塚本邦雄がヤバイのはよくわかるし、かんぜんにわからないかというと低確率でひっかかるものがありはする。しかし、重要歌人に載っているからといってなるほど重要だ!とわかるというとそういうことはなく、まあ重要なのはわかるけどこれ歌会に出てもとらないし私にはわからん……となることが多かった。

穂村弘とか佐々木あららあたりの方がそれわかるーといえるし、その辺りの短歌が良くないかというと全然そんなことはなく、ポップでエモくてすごいのだが、それだけしかわからないのは少しさみしい。いま考えると、私は短歌を共感でしか読んでいなかった。短歌を読むアンテナは共感以外にも美しいぞアンテナとかその技すげえアンテナとか視点がヤバイアンテナとかその悲しみを理解することはできないけど悲しいことはわかるよアンテナとか色々あるし、きっと読む側にも訓練が必要だったんだと思う。

短歌会でも、本郷短歌会のすごい人々*2と歌会をしてボコられたり(これは気持ちいい)、評やら短歌を見たり気に入った歌集を延々と読んだりしていたぐらいなのだ。入門書をロクに読まずに来てしまった。

むしろ読むには、今しかない。そう思っていくつか読んでいる。

今はじめる人の短歌入門

さすが格調高くて、文章は綺麗で気分がいいし、短歌を作ることは、簡単に見えてとても難しいことなんだよと言ってくれるいい本。だが、文語で始めろ!と書いてあったりして、最初にこれ読んでたら敷居が高くて短歌沼に入れなかった気がする。多分入門と書いてあるが、私のようにはじめちゃってやめるにやめられないけど行き詰まっているような人が読むべき本だ。*3

本の中では、ただ単に風景を詠むという自然詠の大切さとその難しさを強調している。自然のなんでもないような一見地味な風景を技巧を凝らして詠むということは、そのあとの歌人としての伸びに大きく影響すると書いてあった。

確かに私は自然詠が全然わからない(元々持ってる景色のエモさが引っかからないと全然わからない)ので、そういう物をどのようにして面白く味わえるか、自然詠アンテナの存在を教えてくれただけでもかなり読む価値があった。

『考える短歌』俵万智

考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)

考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)

短歌を添削しながら、短歌の各テクニックを教えてくれる本。

添削の内容は、さすが俵万智先生!相聞パワーが苦しいです!となる時も多いが、 体言止めを一首で二つ以上使うと焦点がぼやけるとか、安直な「の」に要注意とか、実例をもって示されるとものすごく納得するし、短歌やってるけどなんか上手くならないんだよなとか思ってる人にはいいと思う。

私も歌会で技が少ないと言われまくったので読んでよかった!

『現代秀歌』永田和宏

現代秀歌 (岩波新書)

現代秀歌 (岩波新書)

後世に残すべき秀歌を100首集めて解説したもの。 古いやつぜんぜんわかんないんだけどここまで懇切丁寧になにがすごいか教えてくれると何かがわかった気になる。

たぶんこういうのはわかった気になるのも悪くなくて、そのまま引っかかったように覚えて、6年後とかにふと思い出してああ……ってなるのが一番いいのでそれを期待する。 『万葉秀歌』や『近代秀歌』もあるらしいので今度読みたい。

気に入ったのはこのへん。

大根を探しにゆけば大根は夜の電柱に立てかけてあり

花山多佳子『木香薔薇』(平18,砂子屋書房

大根を探しに行く時点で面白いし、この31文字しかないかなで大根って2回も言うあたりどれだけ大根の不在が不安だったんだ!という気分にさせられる。下の句では記述されていない大根をスポットライトみたいに照らす街灯まで目に浮かぶようだ。

水中より一尾の魚跳ねいでてたちまち水のおもて合はさりき

葛原妙子『葡萄木立』(昭38,白玉書房)

ただ魚が跳ねただけなのに、この人は魚よりは水面のことを見ている。水のおもてが合わさるという表現が美しくて面白い。よく見ているなと思う

桜前線開架宣言』山田航

桜前線開架宣言

桜前線開架宣言

最近の若い歌人の歌と歌人評を集めたピンクの本。 これでなんかよく話題に上がるけどよくわからなかった有名人の名前を覚えることができる……うれしい!という気持ちと同時に、この穂で衝撃を受けたのが、歌の良さがわかる!ということだった。やはり最近の人のほうが良さがわかりやすいことが多そうだし、格調高い人もいればポップすぎる人も居て、これからはじめようって人にも安心して渡すことができる。

本郷短歌 5号

入門書ではないし、本郷短歌会は卒業したけど行商人さんから購入して読んだ(ありがとう!) 自分が所属してたという贔屓目もあるが、やっぱりめちゃくちゃ短歌がうまいしクッソ〜という気分にさせられる。 クールなやつを引いてきたので、グッときたやつがあったらぜひ通販で買ってみてください。評論も良いです。

東京大学本郷短歌会 『本郷短歌』第五号のご注文につきまして

小鳥の巣ほつれそめつつビニールは夕べの弱き光にうごく

「静水」 小原奈美

眠れない君には多世界解釈を君がどこかで逃がした羊を

「Buoi」 尾鷲明希

墓標また墓標の丘も詩の中に〈死なざるものはうつくしからず〉

「旅人のフォークロア」 吉田瑞季

終わらせることの難さに甘えるな曹達(ソーダ)の飴は噛み砕くべし

「(東部第19872地区より、レポート通算505号)」 渡延悠里

ぬばたまのピアノを劈きひとの手はひかりの絡繰に降り立ちぬ

「竜頭をうしなふ」 川野芽生

ゑづくとき躯は震ふほかなくて人はおのれを飲み干せぬ壜

「あなたのからだを読者は見ることができない/わたしのからだなら見てもよい」 七戸雅人

*1:有名な歌人の歌のカタログみたいなものです

*2:ほんたん読んだことない人は読んだほうがいいと思うんだが本当にヤバくて一見難解ながらも突き刺さるような詠み方をする、歌会の評のレベルは読みの深さもズバッと言ってもらえる気持ちよさも段違いで、とにかくヤバイ奴らがやっているのだ

*3:本当に初めての人は、とりあえずなんかつくって短歌ハイになっちゃいなよ!と思う。