どうにもいろんなことが信じられなくて、例えば私は仕事でデザイナーとして暮らしているけど、世界のほとんどの色がRed Green Blue の3色の組み合わせで表現できるとかいうのが全然信じられない。
モニターで全ての色を表せるわけではないことははっきりしていて、例えばモニターの黒より暗い色は出せないことはすぐわかる。けれど写真を見て、同じものが映っていると認識できるぐらいには色はたくさん表現できてるわけで。
そのRGBの組み合わせから選んでデザインみたいな事をしていると、世界に色はこれっぽちしかないんだろうか……みたいな気分に襲われる時がある。これで全部表せる!みたいな物が本当に信じられないのだ。*1
あとこの前カントを読んだんだけど、本当にこれがあのカントなのか、カントが書いた文章とおなじ意味のことがこれに書いてあるのか?やばくない?カントってもう死んでるんだぜ?何年経ったと思ってんの?いや偽物だと思っているわけではないけど、本当の本当に200年前に死んだ人の本が今でもめっちゃ読まれている!みたいなことは全然信用ならない。読んでいても本当にあのヤバイ哲学者のカントなのか?ってのがわからない。リアリティがないというより、体験としてわけがわからない。
家の壁の丈夫さも信じてないけれど、この前穴があいてしまって、たしかに家を建てることも破壊するもことができるなら、穴ぐらい開くだろうというのは当然なんだろうけれど、それでも穴が開くところを見るのは初めてだったので、世界に対する信頼は少し失われた。壁のようなものからさえ、世界に対する信頼が発生していたんだなと思う。
信じられなさすぎると人生に支障をきたす。
未来が信じられない若者ってやつは、30まで生きるということも信じられない。私は30で死ぬことすら信じられなくて、45とかまで生き延びてしまって野垂れ死にギリギリラインで苦しむんだろうな、早死できたらラッキーだけどそこまで自分はラッキーではない、ぐらいには思っていたし今でも少しそう思っているんだけど、まあどうなるかはわからない。
ただ保険とか貯金とかは、自分にマトモな未来が来ると信じていられるからできるもので、信じられなければ常にノーフューチャーだし月給取りになることも困難だ。若いうちはキツイけど出世するまで我慢する、とかもできない。
未来を信じていなければ人と約束もできなくなるし、そこまで来るとさすがに困るので、信じられなくても信じているふりをして生きるしかない。
そう、信じられないと大変なんだ。
けれど小説を書き始めてから、世界や時間を信じはじめた、というか、信じざるをえなくなった。
小説を書きはじめてよかったこと
物をよく見るようになる
短歌とかでもそうだけど、路上観察が捗る。好きなものを見るあたらしい視線ができるというか。
そういうときに言語化しておくと、言語に残ったものだけではあるけど、それを長いこと覚えておくことができる。
書き終えるために時間をかけることができる
小説は時間を描くことに適した形態だと思う。
小説に比べてかなり短い短歌とか俳句みたいなのは、断片のようなものを放り出すことで、否応なしにその人の記憶とか、そうなったときの感じみたいなものを引きずり出すことができる。そこから出てくるものはかなり読み手の記憶や経験に依存するので、好き嫌いとか、読める読めないの差が激しく出るのはそのせいかもしれない。
小説は、読むのにも書くのにも時間がかかるというその長さが、弱点でありいいところでもある。読むのに時間がかかるということは、読者の方の記憶になることができるということでもあるから。
登場人物のキャラが濃ければ、読者はその登場人物のことを覚えるだろうし、そいつのことを好きになったりすることまでできる。
長いと書くのは大変だけど、多分長さが小説を小説にしているし、小説が記憶になるということを、書く側も読む側も考えてみると面白いかもしれない。書いている人は、たとえ小説を書かずに洗濯物を干しているときでさえ、小説のことを考えれば小説の中の時間に居ることができる。
だから作り終えるまで時間がかかる作品で、なおかつ進んでいるのが見えるようなものはたぶん全体的に脳に良くて、書いているうちに世界や時間に対する信頼みたいなものができる。一日で書き終わるならまだしも、書き上げるのに一ヶ月かかるんだったら、一ヶ月は生きていたいと思うだろう。まあだからこそ、世界を信頼していないとなかなか手をつけられないのかもしれない。
小説をうまく書き始める方法
入門書
小説入門はこれが良かったけど、逆に書けなくなるかもしれない。そういうもののほうが良い入門書だとは思うけど。

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道具
私は原稿用紙を買ってそれで書いている。

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原稿用紙だと、パソコンで書くときのように延々と修正するできない。できるのはちょっとした修正だけ、でなければ紙が真っ黒になってしまう。気に入らなければ書き直す。
よってできることは、捨てるか前に進むしかない。
私は人生で「小説書きてえ〜〜」となったときが何度かあったけれど、原稿用紙を導入した今回まで、一度もうまくいったことがなかった。原稿用紙はすごい。
多分手書きの方が性に合っていたんだと思う。PCのエディタの空白は切れ目がなくて辛かった。原稿用紙は400字書くたびにめくるという作業があって、これも脳にいい感じがする。手書きのほうが肩の運動にもなるし、作家みたいでかっこいい。PCに写すのはだるいけど……。
書いたもの
そういうことを考えながら色々書いた。わけわからないのもたくさんできたけど、同居人が出て来るこれはちょっとわけわかるし、時間を描けたような気がする(今の私は時間を信頼しているので、もっと書いてればもっとうまく書けるようになるような気すらしている!) 大した冒険はないが雨の中花火をするか迷ったりはする。