マフィアと隣り合わせの暮らし『死都ゴモラ』
いわゆる裏社会もののノンフィクション。高度に資本化された企業マフィアをめぐる短い話がたくさん入っている。
- 作者: ロベルトサヴィアーノ,大久保昭男
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2011/10/05
- メディア: 文庫
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裏社会では、異常な出来事が多々起こる。
破れたコンテナから冷凍された出稼ぎ中国人の死体があふれだし、麻薬中毒の男がマフィアに殴られ動かなくなる。その男の顔に麻薬中毒の女が小便をかけ、男は息を吹き返す。吸い込んだら10年後に苦しみながら死んでしまうような有害な廃棄物を運ぶ仕事を、危険だと聞けば聞くほど重要な仕事だと思い熱心にやる少年たち。
現実では変なことが起こるものだが、本当に異様で想像を絶する、だからこそ現実でしかありえないような出来事が、淡々と、黙示録的な美しさを持つ、文学的と言ってすらいいような文体で書かれている。
そこで起きていることは確かに血みどろで出口がなくて、どうしようもない気分にさせられるのだけど、読んでいるうちに、その裏社会の出来事が、実は裏でも何でもなく、われわれの便利な生活と地続きであることが思い知らされる。作者はこんな場所に本当に潜入して大丈夫なのかと心配になるが、現在は常に警護付きで暮らしているらしい。
読むのはとても辛く、人殺しの道具である銃を改善し、子どもでも扱える道具にまでしたあのカラシニコフに関する章が明るく見えてしまうぐらいだ。*1
こういう絶句してしまうようなことの本の感想はとても言いづらいのだけど、こういう本を読むたびに、表社会から外れ暴力と鉄が支配する裏社会で暮らしたとしても、より厳しく穏やかさから遠い生活をする羽目になるんだなと思う。
最近同じ作者のコカインゼロゼロゼロも読んでいるけど、これもすごくひどい話を冷徹に書いていたり、マフィアのボスが秘密の掟を話したときの録音を聴かせてもらったりしていてすごい。
社会を考えるときに人は経済のことばかり考えてしまうが、その経済を動かしている要因として、麻薬のことももっとちゃんと考えたほうがいい。